生産機械工学科 通史

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・このページは機械知能システム学科の前身である生産機械工学科の通史で、1992年発行「学科創立30周年記念誌 創(TSU KU RU)」の第一部である「学科史」の一部をHTML文書にしたものです。


Contents

学科創立以前(生産機械工学科創立準備)

学科設立と講座編成の理念
概算要求書にみる講座編成とその変遷
学科創立に伴う特別要求
学生定員とその変遷

学科創立から昭和55年ごろまで

組繊、講座を中心とする人事の変遷
研究内容の変遷と主な研究業績
実験設備等の変遷
本学科のカリキュラム
卒業生の組織

昭和55年ごろから現在まで

組織を中心とする学科の変遷
研究内容の変遷
カリキュラムの変遷
卒業生の組織


生産機械工学科 通史

■学科創立以前(生産機械工学科創立準備)

 昭和37年に本学科が設立されるにあたっては、その数年前から周到な準備が行われていた。すなわち学科増設ならびにその教育・研究内容は文部省における審議事項であり、文部省に対する提案は概算要求の形をとる必要がある。本学科設立に関する概算要求は幾度かの変遷を経たようであるが、昭和36年に文部省宛提出された昭和37年度概算要求書が残されているので、その中から本学科設立に関連する部分を抜粋して、本学科設立当時の理念と教育・研究内容を振り返っておきたい。

1.学科設立と講座編成の理念

 本学科の設立の理念は、下に示す昭和37年度概算要求書にもあるとおり「優秀な生産管理者・技術者を養成し、もって我国の工業生産の進展に寄与する」ことであった。本学科設立以前の生産技術に関する教育は機械工学科において行われてきた。すなわち、昭和21年から26年にかけて、機械工学コース(この間旧制の本学では学内措置として学科が廃止されたため機械工学科は応用物理系機械工学教室となり、機械工学科標準課程は機械工学コースと改められた)を第一(一般)、第二(生産)および第三(計測)の3つに分け、機械工学コース第二を履修した学生に生産技術・管理に関する教育を行っていた。その後、我国の工業技術の発展に伴い生産技術教育の必要性が増し、さらに新制大学の発足、講座設置・機械工学科の復活に際し機械工学科の講座内容が現行のそれに近い形に落ちつくにつれて生産技術教育を行う独立した学科の設立が切望されるようになった。
 このような事情を背景として提出された概算要求書から、本学科設立とその講座編成に関する部分を以下に示す(原文のまま)。

学科の新設(生産機械工学科)

 機械技術者が占める工業分野は広汎且多岐にわたり、産業界からの要望も極めて大きく、現状においてはその一割も満たすことは出来ない。
 これらの産業界の要望を大別すれば、一般製造工場における管理技術者、生産工場における生産管理者および設計技術者にわかれる。しかし機械技術者に共通していることは、電気工業においても、化学工業においても、すべての工業において生産ということに直接結びついていることである。これが産業界が機械技術者を要望する所以である。
 従来本学においては、仕事内容が異なる三種の技術者を機械工学という一つの学科で養成して来た。しかし工業が高度化されるにつれて生産管理者の重要性は特に増大し技術向上が望まれるとともに産業界の需要も増大し、機械工学科の一部分においてこれらの技術者を養成することは困難になって来た。
 他方永年にわたって本学機械工学科卒業生は現場技術者として、産業界においてはその能力が高く評価されて来た。しかし生産技術が進歩してきた今日においてもなおこのような産業界の期待に添うことは困難であり、早急に生産機械工学科を創設し、優秀な生産技術者を養成することが最も必要である。このことはわが国工業界の要望に応え、もって工業生産の進展に寄与するものと考えられる。
 新学科の教育方針は既設機械工学科学生とともに機械工学の基礎を履修せしめた後高学年において生産機械工学的な専門科目を選択履修せしめる方針である。したがって次の観点から新学科の講座編成を考える。

    a. 既設機械工学科の講座は別表の通りであるが、生産機械工学に関するものは比重が低いこと
    b. 増員に伴う基礎的機械工学の講座の充実
    c. 機械工学の最近の進歩にもとずく新分野のとり入れ

(一部略)

    参照 機械工学科講座調
        機械力学、材料力学、塑性力学、機械要素、機械工作、水力機械、
        熱工学第一及第二、応用力学第一及第二 計10講座
(以下略)

2.概算要求書にみる講座編成とその変遷

 昭和37年度概算要求書には学科新設後の年度別の人員増加予定とともに本学科の講座編成についても述べられている。すなわち学科設立時にすべての講座が揃っていたわけではなく、概算要求書に記された予定では創立時に3講座を設置し、その後2年間にわたって2講座づつ増設することとなっていた。概算要求書に記載の講座名、講座内容および開設年度は以下の通りである。

  講座名     講座内容                  開設年度
  機械材料学   機械に使用する材料の強度及びそ       昭和37年
          の処理に関する工学
  機械設計    各種機械、装置生産設備等の計画       昭和37年
          及び設計
  塑性加工    プレス圧延、引抜き、押出し等の       昭和38年
          加工に関する工学
  工作機械    切削、駆動、制御等の理論設計お       昭和38年
          よび使用計画
  流体工学    油圧機器、潤滑、流体輸送、射出       昭和39年
          成形等に関する工学
  鋳造溶接工学  鋳造、溶接、粉末冶金およびその       昭和39年
          材料等に関する工学
  一般教育                          昭和37年

 実施段階においては講座設置予定は若干の変更を受け、昭和40年に本学科の講座設置が終了した。また昭和40年には講座名称の変更が行われ、現在の生産機械工学科の講座が確定した。すなわち、

  昭和37年    機械材料学(単一講座)
  昭和38年    機械設計講座、塑性加工講座増設
  昭和39年    工作機械講座、流体工学講座増設
  昭和40年    応用熱学講座増設
          講座名称変更
            機械材料学  →  材料強度学
            機械設計   →  機械設計学
            塑性加工   →  溶融加工学
            工作機械   →  機械加工学

したがって、現在の形態の生産機械工学科の基礎が固まったのは昭和40年である。

3.学科創立に伴う特別要求

 本学科創立の概算要求提出時には新しい学科を運営するに必要な建物はなく、研究設備も不足していたので、概算要求書にはこれに関する特別要求が盛り込まれている。以下に特別要求内容を概算要求書から転載しておく。

特別要求額内訳

(イ) 建物新営費(国立文教)

    区 分        構 造        坪数      単 価      金 額
    研究室、実験室    鉄骨、鉄筋      1050      150千円      157,500千円

(ロ) 設備費内訳(編注:昭和37年度のみ)

    区 分         単 価  数量      金 額    備 考
    (機械材料学)      千円           千円
    特別設備                    18,000
     万能試験機      7,000   1      7,000     電子管自動平衡200ton
     疲労試験機      11,000   1      11,000
    一般設備                    16,940
     万能試験機      3,000   1      3,000     電子管自動平衡100ton
     捩り試験機      3,000   1      3,000            1,000kg
                4,000   1      4,000            6,000kg
     ゴム引張試験機     470   1       470
     硬度計        1,100   1      1,100
     ビスコメーター     510   1       510
     微小硬度計       800   1       800
     シャルピ衝撃試験機     360   1       360
     摩耗試験機       500   3      1,500
     金属顕微鏡       300   2       600
     炭素硫黄分析計    1,000   1      1,000

4.学生定員とその変遷

 学科創立要求段階での学生定員、すなわち概算要求書記載の学生定員は1学年40名であった。この要求はそのまま認められ、昭和37年の学科創立から本学科の学部学生定員は40名とされた。しかし前述の通りこの段階では本学科の講座は完全には充足されておらず、このため生産機械工学科の教育は機械工学科と一体運営された。その後昭和40年に講座が完全に揃ったことを受けて、生産機械工学科所属の学部学生40名を独立して教育・指導することとなったことは次章に述べる通りである。

 その後の生産機械工学科ならびに生産機械工学専攻の学生定員の変遷をここにまとめておく。

年 度      生産機械工学科    生産機械工学専攻     摘要
昭和37年     40名        −−−          学科創立
昭和41年     40名        M12名         生産機械工学専攻設置
昭和43年     40名        M12名、D6名
昭和46年     34名        M19名、D6名     学部定員を修士へ振替
昭和48年     34名        M18名、D7名
昭和50年     34名        M15名、D6名
昭和52年     34名        M15名、D5名
昭和61年     40名        M15名、D5名     学部臨増による定員増
昭和63年     45名        M15名、D5名     学部臨増による定員増

■学科創立から昭和55年ごろまで

(東京工業大学百年史部局史から許可を得て転載、ただし一部変更箇所あり)

1.組繊、講座を中心とする人事の変遷

 生産機械工学科は、“人問社会の維持および発展に必要なものを創る”生産工学と精密工学をたて糸とし、従来の機械工学をよこ糸とした新しい工学の創造を目指して、昭和37年に設立された比較的新しい学科である。

 まず、昭和36年度に文部省から学科増設の内示があり、当時、機械工学科草間教授を代表とした生産機械工学科新設世話人会が発足して、学科設立の計画が進められた。時あたかも、わが国工業技術が飛躍的に発展しつつある成長期であり、また、東京工大創立80周年記念式典の挙行された年でもあった。わが国基幹産業を形成する諸生産工業においては、いかにして高い性能と信頼性と経済性のある革新的な製品を開発し、それをどのような技術で合理的迅速かつ経済的に生産するかという総合的な開発技術と生産技術の確立が、人間社会の幸福と繁栄を約束する大きな目標であったわけで、その要望に応えるため、本学科設立の意義は、当時としてもまことに大きいものがあったといえよう。

 早速、講座増設が昭和37年度の1講座を皮切りに、38年度2講座、40年度2講座、41年度1講座と次々行われ、現在と同じく表1の6講座編成となった。この間、機械工学科から移られた草間・益子両教授は、昭和44年に大改訂するまでのカリキュラムなど学科内容の充実等現在の学科運営の基礎を作られた。また、教官充足に当たっては、研究所や会社のいずれも第一線の要職にある方々に来てもらうため、先方の了解を得るのに苦労された昔話も両名誉教授から幾度か拝聴している。

 これらの努力のおかげで、極めて短時日に学科の独立運営を名実ともに実行され、これまで機械工学科と合同で行われてきた学科会議に代わって、第1回の単独の学科会議が昭和41年4月13日に行われたことが記録されている。なお、学科設立以来参加された教官人事の変遷を表2に一覧した。学科設立当初は、もちろん建物はなく、本館およびその周辺に文字どおりのバラック住まいであったが、昭和39年には現在の北棟が完成した。各教官はスぺース的にも余裕のある教育と研究生活が味わえたが、現在は設備の充実や人員増加により、非常に手狭になりつつある。

 学部学生は、当初機械工学科と1本で、学科所属教官に卒論指導を受けたものが生産機械の卒業生として巣立ったが、昭和40年度の新入生のうちの40名が初めて学科所属し、43年春、最初にまとまって社会に送り出された。

 一方、大学院組織については、生産機械工学専攻が昭和41年度から増設され、学科教官指導学生は自動的に本専攻に移ることになった。また、引き続き機械工学専攻と1本で行われていた大学院運営も、46年からは完全に独立分離した。その後、総合理工学研究科の発足により、機械設計学講座がシステム科学専攻に協力講座の形で移行し、表3の現在の大学院構成となっている。

 以上、生産機械工学科設立の経維を含めて組織と人事の変遷を簡単に述べたが、本学科は設立当初から教官と学生間に心の通った少人数教育を目指しており、学生も比較的のびのびとした学生生活を送りつつある。

2.研究内容の変遷と主な研究業績

(1)材料強度学講座

 本講座は昭和40年に開設され、これまで種々の荷重のもとでの材料の強度に関する基礎から応用にいたる広範な研究を行っている。

 基礎的な研究としては、各種荷重のもとでのぜい性材料の強度試験や材料の表面近傍に存在する表面層を考慮した軟鋼材の降伏に関する研究がある。

 このような基礎的研究に続いて、各種ぜい性材料の引張り、圧縮、ねじりなどのもとでの破壊や種々の断面形状のはりの曲げ試験を行い、ぜい性材料の破壊に及ぼす応力分布や断面形の影響について調べるとともに、その寸法効果についても研究している。

 海洋開発に関連させて、静水圧中でのねじり試験も行い、深海中での材料の挙動について研究を行っている。

 また、組み合わせ荷重のもとでの材料の挙動についても研究を行い、二軸および三軸応力下でのぜい性材料の破壊の条件を見いだすとともに、円筒の側圧のもとでの破壊をぜい性材料の切断に利用した応用的な研究もある。

 この側圧を利用した刃物を用いないぜい性材料の新切断法により、これまでその切断にかなりの費用と時間を要したシリコン、アルミナ、水晶、サファイアなどの切断やディスキングを1回の操作で瞬時に行うことができる。

 そのほか、ぜい性材料の衝撃破壊現象を調べたものとして、チョークの落下による破壊、ガス内圧による円筒の破壊、単純圧縮による円筒の破壊などがあり、また、水滴を水面上に落下させた場合の水の飛散やその周辺の現象についても観察を行っている。繰り返し荷重のもとでの研究としては、中心穴をもった帯板の引張りや横穴をもった中空円筒の内圧の研究がある。

 現在は、各種加重のもとでのぜい性材料の破壊強さを統計的に処理する研究、ぜい性材料の破壊に及ぽす圧力媒体の影響、セラミックスの強度試験法などについて研究を進めている。

(2)機械設計学講座

 機械工業での設計には、広い分野の知織と総合する能力、創造力が要求される。機械設計学講座は、このような要求にできる限り沿う研究、教育を考えてきた。当講座の研究は、人事の移動に伴って約5年ごとに変遷してきており、次のように3つの時期に分けることができる。

〔第1期〕(昭和45年頃まで)
 機械設計の基礎として、油圧回路中のキャビテーション、高精度制御弁の特性等油圧関係の研究、歯車のスコーリング等機械要素の研究、加工材の特性と切削性能等生産加工に関する研究をしていた時期で、講座新設後の地固めの時代である。

〔第2期〕(昭和50年頃まで)
 不規則信号の統計的処理を機械設計に取り入れた時期で、不規則変動荷重下の歯車の疲労、機械加工部品の不規則表面凹凸の統計処理と接触変形について主として研究していた時期である。後者の研究成果は、精密機械の精度、性能向上に大きく寄与し、昭和49年度日本機械学会論文賞を受賞している。

〔第3期〕(昭和55年頃まで)
 電算機を道具として積極的に取り入れ、白動設計、精密計測の研究に着手した時期である。自動設計の研究は、林国一教授の総合理工学研究科への配置換えに伴って、同研究科の精密機械システム専攻で継続され、成果を挙げている。精密計測の研究は、測定システムの中に電算機を導入し、円筒度の自動測定と分析システム、表面凹凸の三次元測定システム等の開発と非接触高速測定法の研究を行っている。これらの測定ンステムは、機械の高性能化に必要なため、大きな反響をよんでいる。また、精密機械構造を設計の段階で推定する計算システムの研究も行っている。さらに、笹田教授の着任に伴って、トライボロジー、医工学関係の研究も行いつつある。

(3)溶融加工学講座

 講座開設(昭和38年)以来の研究では、まず、ろう付として、銀ろうのぬれ性、継手の機械的性質、特に、X線透視法によって金属板間隙中のろうの浸透状態を明らかにした。また、爆発溶接として、接合界面の組織や接合機構、特にその波模様の生成過程を流体モデルにより説明した。なお、その後も爆接ステンレスクラッド鋼の水素損傷(HPI論文賞)、ステンレス鋼中のマルテンサイ卜変態の電顕観察や、残留応力測定、機械的性質などの研究を行っている。

 一方、溶融溶接関係としては、高張力鋼溶接熱影響部の高温割れ解明の研究があり、自己熱収縮量や収縮ひずみ速度と熱応力および粒界割れとの関係、さらに、高温顕微鏡による直接観察から粒界液化割れの新しいモデルをも示した。

 鋳鉄の溶接の研究も昭和40年から現在まで続けられており、新しい鋳鉄用エレクトロスラグ溶接法や変態超塑性現象を利用した鋳鉄の溶接割れ防止法の開発研究は、昭和50年度溶接学会論文賞を得ている。現在は、鋳鉄溶接における溶接凝固の過渡現象中の黒鉛の拡散挙動などの基礎研究を通じて、いっそう優れた鋳鉄の溶接法の開発を進めている。

 40年代後半からは、変態超塑性現象が薄肉円筒や多層複合材などを使ったモデル実験によって検討され、その現象が局部的変態膨張による金属内部の降伏現象であることが明らかにされた。現在は、微細粒超塑性の機構が検討されつつある。また、焼鈍による体積変化で生じる溶接部断面の凹凸を、光干渉法によって観察する新しい溶接極微小部の残留応力分布測定法を開発し、最近はレーザー光を使って加熱途上の応力焼鈍過程の直接観察に成功している。また、光干渉法は鋼材の切欠先端の延性、ぜい性および疲労きれつ発生と伝播挙動を、液体窒素温度域まで観察する研究がまとめられた。

 昭和50年に入って、拡散接合の研究が本格的に始まり、まず、固相インサー卜を用いた研究、その後、液相インサートメタルを用いて、耐熱超合金の新しい接合を行い、母材強度に匹敵する接合部強度を得た。また、低温用鋼溶接部のオーステナイ卜とじん性の関連などが調べられ、その相関性が明らかになった。このほか、電子ビーム溶接等の研究も行っている。

(4)機械加工学講座(編注:講座の申し出により一部改定)

 講座開設以来、本講座は「切削・研削加工技術」および「工作機械工学」を2つの柱として研究活動を行ってきている。但し、講座人事と対応して、具体的な研究内容は変遷してきていて、そのような観点から見ると、この期間の研究活動は2つの時期に大別され、各時期に行われた研究は次のとおりである。

〔第1期〕(講座開設の昭和38〜45年)
 講座開設以来、機械物理工学科の新設までのこの時期には、当初「金属切削理論」が研究の主力であり、後半に至って「工作機械の結合部問題」の研究が開始された。この時期に行われた代表的な研究は、金属切削機構の解析、工作機械のボル卜結合部剛性、静庄案内面の静、動特性、砥粒の研削機構と研削力の解析等である。

〔第2期〕(昭和46〜55年)
 開設以来講座を主宰された益子教授の退官までのこの時期には、臼井助教授、白樫助手の機械物理工学科転出に伴う研究課題の調整もあったが、次のように数多くの研究が多方面にわたって行われた。すなわち、工作機械の結合部問題、工作機械構造のCAD、工作機械の利用技術、流体潤滑問題、研削加工の熱的問題、切削抵抗の変動成分等である。そして、この時期の研究には、国際的にも最先端を行くものが多く、数多くの論文が高い評価を受けた。例えば、工作機械のボル卜結合部の研究は日本機械学会(昭和46年度)および精機学会(昭和52年度)論文賞を受賞、また、工作機械のDynamic Performance Testは関連業界より注目された。なお、研削加工の熱的問題の研究は、後に精機学会論文賞(昭和58年度)を受賞した。

(5)流体工学講座

 ポンプを含む管路系の振動、は〈離流におけるうずの挙動、うずと熱伝達、PSD(血管の狭さく後膨張)の機構、チュープラ・ピンチ効果の機構、スプール弁の固着、狭いすきまの層流と乱流など流体工学的な研究も行われたが、一貫して続けられた研究テーマは、トライボロジー−そのうちの摩耗と流体潤滑−に関するものである。

 摩耗の研究には、耐摩耗性のような材料面からの実験的研究、実際の機械要素での潤滑面からの研究、摩耗機構の研究がある。ここでの研究は、摩耗の機構を解明することを目的とした一連の基礎的な研究であり、いわゆる凝着摩耗について、主として乾燥摩耗の実験的研究から摩擦面材料の相互移着と成長脱落過程などその機機を明らかにした。また、関節の潤滑機構、人工関節の摩耗と生体への影響などの研究を行い、わが国におけるバイオトライボロジーの拠点となっている。

 流体潤滑の分野についても、多くの研究が行われた。高速軸受の乱流潤滑の研究で得られた乱流潤滑理論は、大形高速回転機械の軸受設計に応用されている。続いてトムズ効果、それによる乱流軸受の摩擦損失低減の実験的研究がある。また、MHDジャーナル軸受、静圧案内面の動特性、浮動ブッシュ軸受の性能、すべり軸受で支えられた回転軸の振動と安定性、キャビテーションや気ほうと軸受性能、静圧2層(気体層−液体層)軸受などの理論的実験的研究も行われた。気液2層軸受では、気体軸受の低摩擦の特色を生かしたまま、負荷容量、剛性、安定性の大幅な改善に成功している。

 なお、現在の軸受は省エネルギー的にみてオーバー・デザインであり、異常摩耗や焼付きなどのおそれのない範囲でどこまで小型化が可能かが課題となる。その意味でも混合潤滑の研究は重要であり、表面あらさや潤滑油中の固形異物の影響など流体潤滑側からの混合潤滑の研究が進められている。

(6)応用熱学講座

 一色研究室は、一色教授が船研より着任以来(1968年)、一貫して熱工学全般にわたり多くの話題に満ちた研究を生んできた。そのうち初期の数年問は、主として伝熱工学と熱応力・熱疲労などの基礎的研究の時期であり、1974年のオイルショックから現在までは、上記に加えて、塩水エンジンを眼目とする新エネルギー・省エネルギーの開発を研究した時期である。主要な研究テーマと業績を挙げると次のようになる。

 @熱伝達の研究      沸騰に関してはインゼグ夕、ナトリウム、混合液、二相脈動等の研究があり、また、人体被服に関連する竹内らの研究がある。

 A内燃機関の熱伝達の研究 とくに、シリンダー内の熱伝達に関し、一色・西脇のアコーディオンモデルによる研究(1973)がある。

 B熱応力の研究      高熱負荷を受ける材料のサーマルラチェッ卜(1975)の研究、および藤井によるゴムボールによる熱応力アナログは興味ある研究として知られる(1972)。

 C濃度差エネルギーシステムと塩水エンジンの研究
              塩類水溶液の濃度変化時の発熱現象を活用して、各種代替エネルギーを濃度差として蓄え、塩水エンジンで放出するエネルギーシステムを開発し、世界初の有人塩水エンジンカーを走らせるなどのめざましい成果を得ている(1976以降)。

 D固体の燃焼の研究    黒崎助教授を中心とし、火災の基礎的研究として、固体着火および燃焼速度に関する黒崎、伊藤(昭)らの研究(1978、1979)が進んでいる。

 Eふく射伝熱の研究    高温ガス炉や核融合炉の熱設計に必要なふく射伝熱に関する研究が、黒崎助教授により行われている。

 Fノズル内熱伝導の研究  高速でガスが流動するノズル内熱伝達に関し、柏木らのホログラフィーを活用する可視研究等(1975)がある。

 Gス夕ーリングエンジンの研究
              熱伝達による加熱を入力とするスターリングエンジンおよび当研究室独自の方式による一色式内燃スターリングエンジンの研究が発足した(1980)。

 H振動翼推避船の研究   その他として魚のひれ方式による推進船の研究も特色がある。

3.実験設備等の変遷

(1)材料強度学講座

 講座新設時に下記の実験設備が設置された。

    ○万能試験装置;10tf(森試験機)、5tf、0.5tf(三精工業)
    ○ねじり試験機;50kgf・m(森試験機)
    ○引張圧縮繰返し疲労試験機;2tf(±1tf)、2,000c.p.m.(三精工業)
    ○小野式回転曲げ疲労試験機;10kgf・m、3,000r.p.m.(三精工業)
    ○油圧ポンプ;4,300kgf/cm2、1,000kgf/cm2(松浦高庄)

その後、下記の実験設備が増設された。

    ○繰返し高庄発生装置;7,000kgf/cm2(60c.p.m.)、5,000kgf/cm2
    (60c.p.m.)、3,500kgf/cm2(300c.p.m.)(ともに不二越)
    ○高圧ポンプ;5,000kgf/cm2、2,000kgf/cm2(日機装)
 以上の実験設備を用いることにより、回転試験以外の種々の強度試験を行うことができる。

(2)機械設計学講座

 講座新設以来の主な実験設備を年代順に列挙する。

    光学式ジグボーラ(三井精機、IC)
    万能顕微測長器(三井精機、UMD1000)
    油圧ユニッ卜(不二越、NHS120)
    フライス盤(日立精工、NCMV311SF)
    旋盤(滝沢鉄工所、TSL550D)
    円筒研削盤(シギヤ製作所、GU-18-25H)
    ラップ盤(津上製作所、TLPM400)
    平面研削盤(三正製作所、GNH4)
    計測用ミニコンピュータ(パナファコム、MADAC300T)
    ミニコンピュー夕(日立製作所、H10-U)
    真円度測定器(東京精密、特注品)
    万能表面測定器(小坂研究所、SC3)
    TSSターミナル(TI、770/2)
    計測制御装置(TEAC、DR1000)

(3)溶融加工学講座

 本講座は溶接工学を主に研究しており、関連研究設備も、溶接機、各種工作機械、溶接部の金属組織および機械的性質を調べる各種顕微鏡、測定機器類がある。主要設備を下記に列記する。()内は購入年度。

    溶接機器    溶接機4台(38年)、溶接棒試験装置(38年、46年に更新)、拡
            散接合装置(48年)
    加熱装置    再現溶接熱サイクル試験用高周波加熱装置2台(38年、53年)、
           赤外線加熱装置(54年)    計測用機器   X線回折装置(38年)、高温顕微鏡(43年)、X線応力測定装
            置(46年)、X線マイクロアナライザー(46年)、インストロ
            ン型万能材料試験装置(54年)
    工作機械    シャー(38年)、ガス切断機(39年)、旋盤(49年)等
    その他、    光学顕微鏡、硬度計、高速切断機、研磨装置、各種電気炉

(4)機械加工学講座

 本講座の研究設備は、研究テーマの推移とともに変遷した。講座開設の初期は工作機械類および切削現象の観察装置が設備の主たるものであった。その後、工作機械の動的特性試験装置を充足し、最近自動設計の研究用としてミニコンピュー夕を設置した。講座開設以来の設備も現有していて、データレコーダ、記録器、光学機器等、実験遂行上必要なものは一応そろえてあるが、以下に主なものを列挙する。

    普通旋盤2台(池貝鉄工製A20型、A25型)、横フライス盤1台(日立製作所製2ML型)、万能研削盤1台(豊田工機製GUP型)、平面研削盤1台(アマダ製SGー52A型)、ミニコンピュータ1式(三菱電機製MELCOM70/25)、アナログコンピュー夕1台(日立製作所ALS260)、機械インピーダンス測定装置1台(SD社製SD1003)、リアルタイムアナライザ1台(HP社製3582A)、三成分切削抵抗測定器1式(Kistler社製9257A)、表面形状測定器1台(東京精密製SURFCOM70)

(5)流体工学講座

 講座の構成員の異動とともに研究内容が変わり、その結果として、実験設備が次のように変遷している。

 

流体機械の研究(昭和38年〜43年)

水撃実験装置、油圧テス卜スタンド、油圧ユニッ卜3台、10kW電気動力計、干渉顕微鏡など
 

摩擦・摩耗の研究(昭和41年〜54年)

ピン・ディスク型摩耗試験機5台、真空摩耗試験機、円筒型摩耗試験機、人工股関節2台(1連式、4連式)、ひざ関節シミュレー夕ー、X線回折装置、蒸着装置、振子式油性試験機2台、回転粘度計など
 

流体潤滑の研究(昭和44年〜現在)

乱流ジャーナル軸受、静圧空気軸受、磁気軸受、気液二層膜スラス卜軸受、気液二層膜ジャーナル軸受などの実験装置、スラス卜型流体潤滑実験装3台、高圧ジャーナル軸受試験機、改良型粘度計、表面あらさ測定顕微鏡、ストレージスコープなど
 

その他

液体金属(ナトリウム、水銀)ジャーナル軸受(昭和41年〜43年)、MHDジャーナル軸受(昭和43年〜46年)、風洞ならびに実時間相関計(昭和40年〜49年)、高圧電源装置(電気粘性研究、昭和40年〜49年)、高圧電源装置(電気粘性研究、昭和41年〜54年)、チューブラピンチ効果実験装置(昭和47年〜現在)、粘度測定用恒温槽2台など

(6)応用熱学講座

 本応用熱学講座の発足時には、蒸発量200kg/時の蒸気ボイラおよび大型直流発生器(200A・30V)を中心とする沸騰熱伝達実験設備によって発足し(昭43)、多くの伝熱研究が行われた。

 その後、ナトリウム伝熱実験設備を設けたが、実験上多くの難点が生じて中止され、そのあとに、1kW級の水溶液ボイラを持つ大型塩水エンジン実験設備が設けられて濃度差エネルギーシステムの初期段階に多くの成果をあげた(昭53)。

 その他高速度カメラ、中型実験風洞、マッハチェンダー干渉計、ホログラフィー実験装置、赤外分光光度計、放射温度計、小型回流水槽、フロン伝熱ループ等多くの実験装置が備えられ、現在に至っている。

 特に注目されたのは、塩水エンジン開発初期の小型模型自動車および有人塩水エンジンカー等の実験装置で、テレビ等を通じて広〈内外に喧伝された(昭51〜54)。

4.本学科のカリキュラム

 本学科のカリキュラムは、学科創立以来2度にわたる小改訂を経て、昭和50年に現在のように極めて斬新な内容となっている。

 本学科のカリキュラムの特色としては、学科のモッ卜ーである独創性を重んじるという点に基づき、低学年から高学年次にわたって系統的な教育がなされるように配慮されている点てある。

 低学年次は、主として基礎工学的な科目を中心として、高学年次に移るに従って、機械工学はもちろん、機械システム、生産システムに関する広い知識と総合能力が与えられるように専門科目が用意されている。

 さらに、本学科の最も重視しているのは、少数精鋭主義の下での少人数教育の1つとしての卒業研究である。卒業研究の学生は各研究室に所属し、独創的な研究に対して教官と一体になって取り組んでいる。

 本学で行われている研究と教育の関係および分野を示したのが図3(編注 図1、図2は転載の都合上割愛した)である。これにより、本学科が工学の新しい分野に乗り出し、斬新な教育を目指していることが理解できるであろう。

5.卒業生の組織

 生産機械工学科の同窓会として“北星会”がある。これは機械系同窓会の白星会の規模がかなり大きく、生産機械工学科独自の同窓会創設の要望が高まっていた折、昭和49年に石井勇五郎先生ご退官に際し同窓会設立基金のご寄付をいただいたのを機に、約2年間の準備期間をもって昭和51年7月に発足したものである。第2回の総会において“北星会”と命名されたが、この名称には生産機械工学科の本拠が北棟にあることや白星会の兄弟分である等の意味が込められている。

 総会・懇親会は、毎年7月に工大あるいは蔵前工業会館で開催され、毎回100名前後の参加者を得てなごやかな雰囲気のうちに会員相互の親睦を深めるのに役立っている。同窓会会報“北星会だより”は昭和53年6月に創刊され、これも年1回刊行されている。また、昭和54年7月には、北星会会員名簿が発行された。なお、会員数は昭和55年7月現在で学生員を除いて約670名である。

■昭和55年ごろから現在まで

1.組織を中心とする学科の変遷

 東京工業大学百年史が編まれた昭和55年頃から今日に至るまでに生産機械工学科とそれを取り巻く環境は大きく様変わりしてきている。ここでは生産機械工学科の人事面を中心にその経緯を各講座・研究室ごとに追ってみたい。

(1) 材料強度学講座

 昭和55年3月、佐藤和郎教授定年退官後、昭和57年10月に塚田忠夫(機械設計学講座)助教授が本講座の教授に昇任、担任換えとなった。その後、昭和58年9月には佐々木 裕助手が退職し日本速読教育連盟を設立、昭和59年10月に松尾陽太郎助手が本学無機材料工学科(機能セラミックス講座)助教授に昇任、配置換えとなっている。その間、昭和59年6月に笹島和幸氏が助手に採用され、平成元年4月に埼玉大学工学部助教授として転出、また平成3年1月に中村 孝氏、同年6月に高橋正明氏がそれぞれ本講座の助手となり、現在に至っている。

 平成3年10月、塚田教授が機械設計学講座に、また平成4年3月に小泉 尭(一般材料力学講座)教授が本講座にそれぞれ担任換えとなった。

(2) 機械設計学講座

 昭和54年に流体工学講座から笹田 直教授が担任換え(昇任)となったことを受けて昭和55年1月に野呂瀬進助手が流体工学講座から機械設計学講座へ配置換えとなった。また昭和50年来助手を務められた柳 和久氏が昭和57年10月をもって長岡技術科学大学総合工作センタ専任講師として転出された後、昭和60年4月に平塚健一氏が助手に採用され、平成元年4月に中野 隆氏が教務技官から助手に採用されている。なお、野呂瀬進助手は平成元年4月をもって帝京大学理工学部へ助教授として転出されている。

 平成3年3月には永く本講座教授を務められた笹田 直教授が定年退官され、同年10月に材料強度学講座から塚田忠夫教授が担任換えとなって今日に至っている。

(3) 溶融加工学講座

 昭和49年来本講座教授を務められた土肥(旧姓 田村)博教授は昭和61年3月をもって定年退官され、その後昭和62年10月に恩澤忠男助教授が同講座教授に昇任した。さらに平成元年4月には鈴村暁男助手が同講座助教授に昇任し、欠員の生じた助手ポストを平成2年9月に高橋邦夫氏を採用することで充足している。

(4) 機械加工学講座

 昭和53年来教授を務められた阿武芳朗教授が昭和59年3月に流体工学講座に担任換えとなり、その後昭和59年7月に伊東 誼助教授が同講座教授に昇任した。昭和60年4月に斎藤義夫助手が千葉大学工学部助教授に転出され、その空席を充足するべく昭和60年7月に伊藤周三氏が技官から助手に昇任された。さらに昭和60年8月には堤 正臣助手が同講座助教授に昇任したが、昭和61年4月をもって東京農工大学工学部へ転出された。その後昭和62年4月に新野秀憲氏が助手に採用され、平成元年4月に同講座助教授に昇任している。昭和63年4月には伊藤周三助手が都立工業高等専門学校助教授として転出されたのを受けて、平成元年4月には橋詰 等氏が、平成2年4月には稲場千佳郎氏が助手として採用されている。

(5) 流体工学講座

 流体工学講座では笹田 直助教授が機械設計学講座へ担任換え(昇任)となった後、昭和57年3月に中原綱光助手が助教授に昇任し、同年4月に京極啓史氏が助手に採用されている。昭和58年3月には永らく同講座の教授を務められた青木 弘教授が定年退官され、昭和59年3月に阿武芳朗教授が同講座へ担任換えとなるが、昭和60年3月をもって定年退官された。

 平成3年12月に中原助教授が同講座教授に昇任し、今日に至っている。

(6) 応用熱学講座

 昭和58年3月に一色尚次教授が定年退官され、同年12月に黒崎晏夫助教授が同講座教授に昇任した。竹内正顯助手は昭和58年に東海大学工学部へ転出(現在桐陰学園横浜大学教授)され、その空席を充足すべく昭和59年4月に佐藤 勲氏が助手に採用された。さらに昭和59年7月には柏木孝夫助手が同講座助教授に昇任し、昭和60年4月には石黒 博氏が助手に採用された。その後、柏木助教授は昭和61年4月に東京農工大学工学部へ転出、石黒助手は昭和62年6月に筑波大学構造工学系講師へ転出(昇任)されたので、昭和63年4月に山田 純氏が助手に採用された。平成2年4月に佐藤助手が同講座助教授に昇任して現在に至っている。

(7) 一般材料力学講座

 本講座は従来工学部共通講座として機械工学科が世話学科となって運営されてきたが、昭和61年4月をもって生産機械工学科と一体運営されることとなった。この時点での講座構成は、小泉 尭教授、渋谷壽一助教授であった。小泉教授、渋谷助教授は大学院学生の指導の都合上、しばらくの間機械工学専攻併任であったが、昭和63年4月に解除されている。
 昭和62年4月に井上裕嗣氏が助手に採用された。昭和63年1月に機能システム学(学科目)が学生定員の臨時増募に対応して増設されたのを機に渋谷助教授が機能システム学教授に配置換え(昇任)となったことを受けて、昭和64年1月には岸本喜久雄(機械物理工学科)助手を助教授として迎えている。また平成元年4月には納冨充雄氏が助手に採用されている。
 さらに平成4年3月には小泉教授が材料強度学講座教授へ担任換えとなり、これによる空席を充足するため、平成4年7月には渋谷機能システム学教授が一般材料力学講座教授に配置換えとなっている。

(8) 機能システム学(学科目)

 本学科目は学生定員の臨時増募に対応して時限付きで増設されたもの(いわゆる臨)であり、昭和63年1月に設置され、直ちに一般材料力学講座渋谷助教授を教授に迎えて発足した。その後、平成4年度まで材料力学関連の機能システムにつき研究・教育を行ってきたが、平成4年7月に渋谷教授が一般材料力学講座教授に配置換えとなったことを受けて、現在は空席となっている。

(9) 極限工学(学科目)

 本学科目も機能システム学と同じくいわゆる臨として平成2年1月に設置されたものであり、直ちに下河辺(精密工学研究所)助教授を教授として迎えて、極限的な精密制御・計測の研究・教育を行っている。

(10) 知能機械(日立)寄付講座

 本講座は企業から経費一切の寄付を受け運営する新しい形態の講座であり、本学工学部で初めての寄付講座として平成元年10月にスタートした。設置後直ちに中山 恒教授に着任願い、計算機の冷却技術や新しいスーパーコンピュータの形態に関する研究・教育が実施されている。平成3年5月には孫 華氏を助手に採用し、国際色豊かな講座構成となっている。
 なお本講座も時限付きであり、平成4年9月末をもって終了する予定である。

 各講座の現況ならびに研究内容に関しては次章「学科現況」に於いて詳述されるのでそちらをご参照願いたい。

(註:学科現況の章は割愛した。学科紹介、各研究室紹介を参照して下さい。)

2.研究内容の変遷

 ここでは昭和55年ごろから現在までの本学科の研究内容の変遷を講座ごとにまとめておく。ただし本稿は各講座の現在の研究内容に直接接続しているため次章「学科現況」の内容と一部重複すること、また各講座の研究内容が教官に依存するところ大であり教官の移動に伴なって変化する一面を有しているから前節の人事面の変遷ともオーバーラップする部分があることを予めお断りしておく。さらに最近設置された講座・学科目の研究内容の変遷は学科現況に述べられているのでここでは割愛した。

(1) 材料強度学講座(永井研究室)

 10年程前から、電油サーボ弁を用いた閉ループ制御による内圧、引張り、曲げ疲労試験装置を開発し、これを用いて高力アルミニウム合金やオーステンパー処理球状黒鉛鋳鉄(ADI)、高強度鋼などの疲労試験を行ない、大量の疲労破壊データを取得し、その統計解析と破面の詳細な観察を行なった。

 その結果、ADIやSCM435などの高強度材料では、107回を越える高サイクル域で破壊が集中すること、ADIの高サイクル域での破壊は、力学的に厳しい大きな欠陥からは最終破断に至らず、小さな欠陥から発生したき裂が最終破断に至ることなどの特異な現象を見い出した。現在、これら高サイクル域での特異な疲労破壊現象の解明に向けて研究を進めている。

 また、高サイクル域でのき裂発生前の疲労累積損傷評価法の確立をめざし、その基礎的研究として供試材の繰返し数による硬度変化に着目し、詳細な実験をもとに研究を進めている。

 さらに、ローラバニシ加工による疲労強度改善や、超磁歪素子の疲労強度特性の評価、粉体の圧密成型に関する研究などにも取り組んでいる。

(2) 材料強度学講座(塚田研究室)

 最近10年の研究の動向は、不規則信号の解析と形状計測に大きく分けることができる。いずれも計測とそのデータ処理が柱となっている。

 前者に属する研究として、「工学表面のFuzzy測度による感性の評価」、「不規則表面のFractal解析」などであり、近年の解析手法の工学への応用を試み、新たな研究指向の模索テーマと考えている。

 後者に属する研究は、「非接触三次元形状計測システムの開発」、「Fuzzy制御による三次元微細形状計測システムの構築」、「非球面形状評価法」、「偏心カム部品の超精密三次元形状評価」、「超精密加工面の光応用計測」、「超精密スピンドルの精度評価法」などであり、これらをサポートする研究として、「ディジタル三次元フィルタに関する研究」、「三次元スプライン関数に関する研究」などを行ってきた。これらの研究で使用する機器のほとんどは、設計から組立まで研究者が行っており、教育の効果も兼ねている。さらに、共通技術として、コンピュータによる自動計測を取り入れており、制御用ボード、インタフェースボードなどの設計・製作を行い、独自のメカトロ技術とソフトウェア技術を構築している。これらは、近年のメカトロ技術や超精密技術に対応させているものである。

(3) 機械設計学講座(笹田研究室)

 設計学講座は、組織に関する学科の変遷のところで述べられているように、昭和54年に流体工学講座の笹田直助教授が設計学講座の教授として移り、平成3年3月に定年退官されているので、昭和55年から現在までの大部分は笹田研究室となっていた。したがって、ここでは笹田研究室の研究内容について述べる。

 大別すると次の三つの分野で精力的に研究が行われた。

工業材料のトライボロジー、特に摩耗現象について

摩擦・摩耗に及ぼす砥粒などの固体粒子の影響、摩耗粉成長による焼付きモデルの提案、フェログラフィーによる摩耗診断、摩耗現象として見た黒板に体するチョーク、摩耗に及ぼす磁場の影響、摩擦・摩耗と雰囲気酸素の相互作用、摩擦による触媒効果、複合材料の摩耗、フラクタル理論の摩耗分析への応用などに関する研究

人工関節、生体関節、骨のトライボロジーおよび力学的検討

円筒面型膝関節の開発、セラミック製股間節の評価、人工関節の安定位置許容範囲、人工軟骨の摩擦・潤滑特性、生体材料の摩耗毒性評価、人工関節における関節液の摩耗粉分析、人工滑液の潤滑性能、人工関節の固定法;骨折治癒に及ぼす力学的刺激の影響、力学的刺激による偽関節の形成と偽関節の摩擦挙動、生体関節・靭帯の力学的性質(強度、粘弾性)および安定性、イヌの関節の粘弾性特性、などに関する研究

人工心臓の開発に関する研究

人工材料表面での血栓形成に及ぼす速度勾配の影響、溶血と速度勾配の関係、各種人工心臓(ピストン・ベローズ型、遠心型、スクリュー型)の流量制御と血栓形成、など

(4) 溶融加工学講座

 新しい材料が開発されると、一方ではそれを工業材料として活用するための新しい接合技術の開発が必要となる。そのためには材料自体の研究が必要となり、接合に適した新たな材料開発へと展開する事も希ではない。

 昭和50年代終盤からはセラミックス・チタン等のいわゆる高性能の新素材が工業材料として脚光を浴び、これらの接合に関する研究が本講座の研究対象とされている。まず、窒化珪素やジルコニア等のセラミックスと金属を固体反応や摩擦を利用した新しい方法により接合し、その接合メカニズムの解明が成されている。チタン及びチタン合金の接合研究では Ti-Zr-Cu-Ni系の低融点ろうを新たに開発し、その接合性を明らかにした成果に対し米国溶接学会(AWS)より論文賞を受けている。

 平成年代に入り、セラミックス・チタンに関する研究成果はSiC繊維強化Ti基複合材料における繊維−マトリックス界面反応の研究へと受け継がれ、これについては溶接学会論文賞を得ている。さらに、セラミック超伝導材料・ダイヤモンド・Ti-Al 金属間化合物等の最先端材料の諸性質及びその接合挙動の解明研究が行われる一方、常温接合における界面結合力に関する基礎研究も新たに開始されている。

(5) 機械加工学講座

 伊東助教授の教授昇任や新野助手の助教授昇任等という世代交代に伴う講座スタッフの入れ替えと同時に、コンピュータ援用生産技術の研究の活発化という研究環境の変化等により、研究活動はこの時期にひとつの転換期を迎えた。すなわち、講座開設以来のハードウェア主体の「工作機械工学」及び「切削・研削加工技術」の研究の他に、次のようなソフトウェア主体の新たな研究分野を講座のひとつの柱として確立した。但し、「切削・研削加工技術」の研究では、「インプロセス加工状態認識センサー」のみを研究している。

 @ 通産省大型工業技術開発プロジェクトへの密接な協力の一環としての「フレキシブル生産システム(FMS)の設計・評価論」を手始めとした「フレキシブル・コンピュータ統合生産体制論」。そして、この研究の最先端として現在「知的CIM」、「生産文化」、「思考モデル形生産システム」等を研究中。
A  設計を情報変換・交換プロセスと捉えた「工作機械の記述と設計方法論」、並びに「そのコンパクト・フレキシブル生産セル及びFMS設計への応用」。
 なお、これらソフトウェア主体の研究では、国際的にも最先端をいく「未来生産システムの概念」、「熟練技術者の深い知識を組み込んだ生産システムの提案」、「設計情報学の確立の試み」、「技術移転論の確立策」等が示されていて、高い評価を受けている。

 更に、以上の他に、講座開設以来の全期間を通して、他省庁や関連工業会などと共同研究も行なっており、その代表的なものとしては「地盤不等沈下に伴うガス爆発防止用コルゲート管の製造方法」、「高速度新聞輪転機の騒音防止」、「マシニングセンタへのコンクリート及びセラミックスの適用方法」、「FAの標準化」等があげられる。

(6) 流体工学講座
 昭和55年以前の研究の継続として、乱流潤滑におけるトムズ効果の研究、スラスト軸受で高性能が確認された新しい方式の気液二相膜軸受の開発がより構造が複雑なジャーナル軸受形式の応用へと展開し、軸受性能に及ぼす気泡の影響に関する研究は液体の流動による空気膜形成とそれによる油不足作用の発見へと進展し、潤滑油中の固形異物の影響については混合潤滑状態でのMoS2懸濁液によるMoS2の固体潤滑剤としての影響と軸受材料との関係に関する研究へと進展し、混合潤滑の研究ではなじみ過程でのパターンが発見された。また、流体潤滑作用に及ぼす表面あらさの研究では精密な実験によりあらさの影響を考慮した理論の妥当性をはじめて実証したことにより日本潤滑学会の昭和60年度論文賞を受賞した。

 新しく始められた研究では、京極啓史氏が助手として赴任(昭和57年 4月)し、せん断場における気泡の変形と拡散成長の研究が行われ、以前から行われていた潤滑におけるキャビテーション関係の研究が多様に展開した。また、エラストマーの弾性流体潤滑(ソフトEHL)の研究が始められ、すべりとスクイーズの混在下での弾性変形による潤滑性能低減現象が発見され、その後湿式クラッチの締結時非定常潤滑の研究に進展し、現在に致っている。以前から行われてきた混相流の潤滑の一つとして液−液二相流体のエマルション潤滑の研究が始められ油滴の観察と油膜厚さの測定によりエマルション潤滑のメカニズムが明らかにされた。韓国からの留学生の鄭材錬氏が博士研究として油圧ベーンポンプのベーン周囲の非定常圧力測定およびベーン先端部とカムリングの接触部の潤滑特性の研究を行ない、平成元年10月に学位が授与された。その後油圧機器の潤滑問題の開拓が進められ、油圧ピストンポンプのピストンとシリンダー間の非定常摩擦力測定に成功し、平成2年5月〜平成3年2月まで内地留学生として本講座に在籍した福井高専の田中嘉津彦助教授に現在引継がれている。また、地球環境問題に関係する研究として、燃費減のためにエンジンのカム潤滑、代替フロン対策として冷媒圧縮機の潤滑に関する研究が始められ現在に致っている。

(7) 応用熱学講座
 一色教授の退官、日本大学への転出に伴い濃度差エネルギーや塩水エンジンの研究は日大で行なわれることとなり、本講座では以前から実施していた固体の燃焼の研究や衣服などの繊維性多孔体内の伝熱、細線加熱法による物質の熱伝導率の測定、核融合炉冷却の研究等、伝熱工学の基礎研究を行なってきた。一方、一色教授が実施してきたソラーポンド等の太陽熱利用機器の研究はしばらく本講座で継続され、その成果はいくつかの国際会議で発表されている。

 その後、昭和59年ごろから持ち前の可視化技術を生かした吸収式冷凍機吸収器内の蒸気吸収促進機構の解明、ルーバーフィンまわりの流れと温度分布の検討、ふく射加熱された液体層の蒸発現象の研究などが始められた。流動層等の固気二相流の伝熱促進とそのメカニズムの研究、繊維性多孔体内のふく射伝播の研究など現在本講座で行なわれている研究の基礎もこの時期に開始されている。また本学科の名称にちなみ生産工学における伝熱問題を取り上げたのもこの時期であり、伝熱制御による高分子材料の射出成型の高品位化技術の研究を昭和60年に開始している。さらに昭和63年には地球規模での熱的な環境保全の見地から排冷熱を有効に利用する手段として潜熱を利用した高効率な冷熱輸送システムを提案している。

(8) 一般材料力学講座
 本講座が生産機械工学科と一体運営されるようになってから僅かに6年ほどであり、この間の研究は現在も引き続いて行なわれいているので、その内容については次章「学科現況」内の一般材料力学講座の項を参照されたい。

3.カリキュラムの変遷

 本学科のカリキュラムは、学科のモットーである独創性を重んじる理念に基づき低学年から高学年次にわたって系統的な教育がなされるよう配慮されている点については、東京工業大学百年史が編纂された昭和55年当時と変わっていないが、その後の学生定員増加に伴い本学科のもう一つのモットーである小数精鋭主義の下での少人数教育が行い難くなってきた現状に鑑み、幾度かの改訂がなされている。

 特に独創性と洞察力を養う上で不可欠な実験教育では、各講座における研究内容と工学教育内容との整合をはかるために昭和59年〜60年に実験内容の大幅な見直しを行った上で、教官との直接対話を促進し少人数教育の実をあげるために担当教官あたりの学生数を半減しかつ6週間にわたって同一教官の下で一貫した教育を受けるプロジェクト研究(従来の生産工学実験第二・三に相当)を足掛け2年の準備期間の後に実施に移している。

 さらに最近の学生の嗜好の変化に対応して、学生の工学への興味を喚起すべく情報処理演習関連の授業を増やしたり、工業デザイン、サイエンティフィックCG論などの工学トピックス的授業科目を増設している。また、製図科目においても計算機支援設計(いわゆるCAD)を取り入れるなど、大幅な見直しを行った。これが可能となった背景には昭和63年に設置が認められた知能化機械研究設備関連の研究機器の存在があることを特記しておく。

 また大学院重点化の社会的要求に応えて、平成4年度からは機械系5学科合同で大学院社会人プログラム(博士後期過程)がスタートしている。これは企業の研究者・技術者がそれぞれの企業に在職したままで大学院博士後期過程に入学し、一定の基準を満たすことで博士(工学)の学位を得ることのできる新しい形態の大学院であり、本専攻(学科)でもこのための授業科目(ブラシュアップコロキュウム)に協力している。

 本学科、専攻の現在のカリキュラム一覧は次章「学科現況」に詳述されるのでご参照願いたい。

(註:カリキュラムは大学院、学部を参照して下さい。)

4.卒業生の組織

 本学科の卒業生の組織、すなわち同窓会として「北星会」があることは先の東京工業大学百年史よりの抜粋に述べたとおりであるが、その後その形態に若干の変更があったのでこれについて述べておく。

 北星会は生産機械工学科卒業生の同窓会であるが、東京工業大学機械系同窓会としてこの他に「白星会」があり、さらに東京工業大学全体の同窓組織としての「蔵前工業会」と合わせて3重構造となっていた。従前は「白星会」活動が比較的鎮静化していたためこれに伴う不都合は特に表面には現れていなかったが、白星会活動が活発になるにつれ3つの同窓会からの会費請求、名簿発行の重複、行事の重複などの問題が顕在化してきた。そこで平成2年に北星会・白星会両総会を経て、北星会が独自の活動を行えること、資産は継続して北星会が使用できること等を条件に北星会を白星会生産機械工学科支部として一本化することとなった。

 現在、白星会生産機械工学科支部「北星会」の支部長は中原綱光教授(流体工学講座)であり、支部会員数は概ね1200名に達している。